不死鳥の涙 ーリック・シンプソン物語ー 第10章

2019年2月8日

第十章  ジャック・ヘラーとの邂逅

 事実を公表しようと努力したクロニクルヘラルド紙の地元記者のことを、あまり責め立てる気にはなれない。判決後この薬物の持つ治癒力を体験した人達を、彼がインタビューして回ったのは事実だ。彼が記事を書いたのは間違いないのだが、クロニクルヘラルドのトップは、それが出版されるべきではないと判断したのだろう。もしクロニクルヘラルドがその記事を判決時の裁判官の言説とともに出版していたら、この件について世間に対し真実を明らかにすることに大きく貢献したに違いない。だが私の知る限り、それは一度も起こらなかった。これこそ私が、クロニクルヘラルドの購入で金を無駄にしない理由である。新聞というのは、事実を読みたいがために買うのであって、誰も事実を隠すための創作が読みたいわけではないのだ。
 この題材について、記事を掲載した新聞は押しなべて、出鱈目ばかりだったので、記事が書かれようが書かれまいが、どうでもいいと思うまで、大して時間はかからなかった。アムハーストデイリーニュース紙が私の事を「現代のロビン・フッド」と題した記事を載せたのを憶えている。次の段落で、この博学な記者は医学的素養も無いのに、マリファナは絶対に合法化されるべきではない、とご高説を垂れていた。この記者は大麻について何を知っているのというのだ?彼はこの薬物を医療的に経験したことも無いのに。なぜ彼らはこうも大麻について真実を発表することを拒否するのか?概して、彼らの書く記事は非常に誤解を招きやすい物であり、そのせいで誰かが助かる命を落とすことになる。
 ある〝好意的〟な記事を掲載した新聞がその中で、膵癌に苦しむある地元女性について紹介した。彼女は癌の治療のためヘンプオイルを使用することを医師に相談したが、医師は彼女にオイル使用は炎症を起こす恐れがあるので、彼女の治療には悪影響だと告げた。膵癌や他の病気を抱える患者がこれを読んだら、炎症が起こるからヘンプオイルを治療に使うのは避けるべきだという印象を受けるだろう。
 私は新聞に掲載されたことに対する反論を書いて、自分で新聞社に持って行った。そこで彼らが出版したような記事は、大衆を誤解させるものであり、人々に危害を加えるものだと説明した。書いた文章は無視され、私の知る限り、彼らの新聞に掲載されることは無かった。こうして、一般大衆は大麻の真実について無知なままにされ、結果として、多くの人々が自分の健康にオイルが害を及ぼすかもしれないとして、その使用を恐れることとなった。だが現実には、地球上で最も素晴らしい天然の抗炎症剤がヘンプオイルなのだ。そしてそれは、この女性の命を救うことができる物だった。しかし代わりに、医者は彼女とその家族に治療として化学療法を使うことを伝え、幾何も無く彼女は帰らぬ人となった。
 報道機関や医療システムがヘンプオイルの使用について大衆に伝えていることは、全く持ってグロテスクとしか言いようがない。巨大金融資本がマスメディアをコントロールし、彼らの指針に合致する記事だけを印刷するのだとしたら、他に我々は何を期待できるだろうか?私は今日のカナダで起こっていることに反吐が出る思いだったので、本気で自分が生まれたこの国を離れようかと考えていた。私はもっと誠実に運営されている国を見つけたいだけだ。そこでなら私は自分の仕事が続けられ、正気を保つことができるだろう。これまでの段階で私は疲れ、失望していたが、まだ向き合わねばならない〝販売の罪〟が一つ残っていた。
 この件はカッチオーネ判事が判決を下してから、二週間足らずで始まった。この時はダンカン・ビヴェリッジが最高裁判事に任命されていたから、最早私の弁護士としての活動はできなかった。ブルースとヴァルは私の弁護の為、既にビヴェリッジに依頼料を支払ってしまっていたから、彼の代わりとして事務所に雇われた、新しい弁護士が任命された。実際はこの新しい弁護士の存在は何の意味も無かった。私はこの件に関して有罪を認めることを既に決定していたのだ。この時の私は、システムとの決別しか眼中になく、平穏を得るためカナダを離れることで頭がいっぱいだった。
 最終的にこの裁判は形だけの物になった。私は有罪を申告し、それで結審した。同じ罪を二度も争うのは馬鹿馬鹿しく思えたからだ。司法システムは何があろうと、私を有罪にしただろうし、彼らがもう一度腐敗を曝け出すのを見るのに、わざわざ時間と労力を費やす意味など無い。私は禁固刑に処せられたが、それは既に4日間留置場に囚われた時間で相殺された。この刑は、ストレスと腰痛に悩まされている若い女性を助けたことに課せられたのだ。私には本当に新天地を探す必要がありそうだった。
 地元には友達や支持者が大勢いたが、今まで起こった事で私はボロボロだった。その時の私はカナダを離れ、ましな人生を探すことしか考えられなくなっていた。しかし同時に、訪れる患者は後を絶たなかったし、電話口で泣きながら助けを求める人を、どうしたら放っておけるというのだ。私は、草臥れた自分に鞭打って前に進んだ。連絡を寄越す患者には、必死の要請があるのだ。しばらくすると私は落ち着き始め、調子を取り戻し始めた。それでもまだ、自分の求める物があるかもしれない新天地を探し続けてはいたが。ある日のこと、息子と南米への移住について話していると、彼が笑い出した。「何が可笑しいんだ?」私が訊くと、彼はこう答えた「父さん、俺は父さんがどんな人間か知ってる。こんな大事なことから逃げ出す人じゃない。そんなことしたら、きっと自分が許せなくなる。父さんはここに留まって、世間と犯罪者達に、誰がこの国を動かしてきたのか証明することになる、結局はね。」私は一瞬呆然として彼の顔を見つめた。それから二人して笑った。やっと元の自分に戻った気分だった。
 この治療薬を提供し始めてから今日まで、有名人が癌等の深刻な病気に罹った話をいつも耳にする。しかし私のような者から、どうやって彼らに情報を伝えられようか。我々がそれを試みなかったわけではない。沢山のEメールを、病気に罹っている様々な有名人に送った。私の記憶では、唯一の返信は2009年のテッド・ケネディ上院議員からのものだ。彼は脳腫瘍を患っていた。確か返事には然したる内容は無く、彼は他の治療を受けていたが、少なくとも彼は我々の情報を認識してはくれた。それが彼の命を救ったかもしれないと思うと、彼が行動を起こさなかったのは残念極まりない。同時期にチェコ共和国で、我々はケネディ氏の脳腫瘍と同じタイプの末期癌患者を治癒させていた。
 ここ数年の間にファラ・フォーセット、パトリック・スウェイジ、スティーブ・ジョブス等の有名人が回避できたかもしれない、惨たらしい最期を迎えた。世間一般の人達と同様に、私も彼らが、悲惨な病気と、それに伴う残酷で非人間的な治療に苦しむのを、ただ見ているしかなかった。有名人にEメールやメッセージを送るのは簡単だが、まず返事は期待しない方が良い。
 2010年に我々は、マイケル・ダグラスと連絡を取るべきだ、と提案する男からEメールを受け取った。確かにその時期、彼は癌で苦しんでいると報道されていた。その男は、自分がダグラス氏に緊密な繋がりのある、仕事仲間と友人関係にあると説明し、これが我々の運動とそのセレブな映画俳優、双方の利益となることだと奨めてきた。我々は彼に、もしマイケル・ダグラスと近い人間と繋がりがあるのなら、我々よりもそちらからの方が、情報を伝えやすいだろう、とEメールを返信しておいた。マイケルが出来るだけ早くオイルを摂れば、生き残る確率は高くなるだろう、とも書き添えた。多くの人々が、私達はセレブ達を追い回して、オイルを摂るよう懇願すべきだと、信じているようだ。私はハリウッドスターの命が、他の人の命より重要だとは考えていない。私は誰にもオイルを摂ってくれと懇願しないし、選択するのは彼ら自身だ。
 2008年初春、我々はジャック・ヘラーのアシスタントだと名乗るチャック・ジェイコブスからEメールを受け取った。彼によると、ジャックが私のしていることに、興味を示しているということだった。ジャック・ヘラーが有名であることは知っていた。それは主に、彼の名を冠した、大麻の品種があるからだったが。これまで私は、何度も彼の名前と行き当ったが、本当は彼について全然知らなかった。私は自分自身をヘンプアクティビストだと真面目に考えたことは一度も無かった。むしろ私は自分の事を、運動家というよりは研究者だと考えていたし、ジャックが『The Emperor Wears No Clothes(裸の王様)』を執筆したのを知ってはいたが、私はその時、その本にあまり重要性を見出していなかった。どちらかというと、我々は科学的研究の方に傾倒していた。
 二週間程経ったある日の午後、私は電話を受けた。その男の発音は酷く不明瞭で、暫く躊躇していたが、最後には自分がジャック・ヘラーだと告げた。最初に彼が尋ねたのは、白血病にオイルは何かできるか、ということだった。私は、白血病は体内に発生する癌のうち、最も対処しやすいタイプの一つだと話した。オイルを摂取すると、THCはすぐに血流に乗り、概して非常に素早くこのタイプの癌を抑制する。この時私は知らなかったのだが、ジャックの友人である〝キャプテン〟エド・アデールは20年程前にこの病気で亡くなっていた。
 ジャックは私に、自分のインターネットテレビ番組に出る気は無いかと訊いてきた。私は是非そうしたいが、最近付いた犯罪記録のせいで、米国に入国することができないのだと伝えた。ジャックはクックッと笑いながら言った「リック、何年も前だが、毎年夏になるとよくカナダに行ったもんさ、だが今じゃ俺もあんた同様、そちらのお国に入ることを許されちゃいないんだ。」これには二人とも大笑いした。大麻事犯のために、二人の大罪人はお互いの国に行けないのだ。それからジャックは、番組にただ電話を掛けて来てくれるだけでいい、と言ったので、私はこれ程幸せなことは無いと答え、その夜ジャックの番組に初出演の運びとなった。
 ジャックと一緒に仕事をするのは素晴らしい経験だった。私がするオイルの治癒力についての話を、遮ることなく続けさせ、しかもその話にどこまでも飽きない様子だった。彼の番組への出演は本当に楽しいものだったし、ジャックの話には人を惹き付けるものがあった。ここでジャックが過去に脳梗塞を経験し、糖尿病を患っていることを知った私は「ジャック、あんたの状態に何かできるものがあるとしたら、それはオイルだよ。オイルを使うんだ。」と勧めた。彼はこの忠告を受け入れ、言われた通り試すことに決めた。ジャックはその夜の番組の締め括りに、彼の本を一冊贈ると言ってくれた。
 二週間後、郵便を取りに行くと、小包が届いていた。開けてみると、そこにはサイン入りの『裸の王様』二冊と、ジャックのドキュメンタリーである『Emperor of Hemp(大麻の皇帝)』が二本入っていた。このジャックのやり方を私は気に入ったが、同時に、私が他で学んできたこと以上のものが、彼の本に見つかるか、懐疑的だった。今まで自分達がしてきた調査が、どこかで私を独善に陥らせたのだろう。確実な情報は、その分野の研究者からのみ得られるものだと、思い込んでいた。
 自宅に着いてから、ぶっ続けで三度、繰り返しジャックのドキュメンタリーを見た。なんと素晴らしい知識の泉であろうか!それから私は彼の本を読み始めたのだが、それは今までの人生で最もゾクゾクする体験だった。実際彼の本は、徹頭徹尾、大麻に関する重要な情報で溢れていた。私は即座にジャックの信奉者となった。彼の本は人類の宝である。唯一無二の大麻皇帝ジャック・ヘラーよ、永遠なれ!
 2003年、私は自分の活動についてマーク・エメリー(カナダの有名ヘンプアクティビスト、米国へ大量の大麻種子を送った罪で米国政府から訴追され米国で服役)に連絡したが、返事はなかった。2008年春、彼は連絡を寄越し、彼の雑誌「カナビスカルチャー(大麻文化)」に記事を書く気があるか訊いてきた。私は患者で手一杯だったが、やれるだけのことをしようと請け合って、数日の内に文章を送った。間もなく、彼が連絡してきて、私の文章は個人的な意見が入り過ぎているため、出版できないと言ってきた。私は「マークさん、私には暇が無いし、ジャーナリストでもない。記者を送ってくれたら患者の所に案内するよ。」と返事した。その後、この記事に関して彼から音沙汰は無い。
 次にジャックと話す機会があった際、マークとの間に何があったか報告した。最初彼はマークが誰のことだか分からないようだった。「彼の事だよ、ジャック、プリンス・オブ・ポット(大麻の王子)さ」と説明すると、やっとそれが誰だか分かったようで「ああ、北の種屋さんのことを言ってるんだな。彼のために書いた記事を送ってくれよ。」と言い、記事の内容を確認すると、ジャックは「俺にはなんでマーク・エメリーが出版を拒んだのか理解できないね。とても良い記事じゃないか。」と言った。マーク氏は我が強すぎて、ここカナダにおける彼の地位を私が脅かすと睨んだのが、出版を拒否した理由ではないか?彼は王子と呼ばれてはいるが、他が出てきて霞んでしまうと困るのだろう、という見解をジャックに伝えると、彼は自分のウェブサイトに記事を載せても良いか訊いたので「願ってもないことだ。是非そうしてくれ。」と返事した。
 ジャックが私の人生に登場する少し前から、いくつかのアメリカ合衆国のラジオ局から連絡を受けるようになっていた。それはトークショーに電話で生出演する気は無いかという申し出で、私は二つ返事で引き受けた。誰もこの治療薬の使用に反対する根拠のある議論ができないのだ。私が言っていることの正当性を公の場で議論するために、あえて出てくる医師やその他の医療の専門家がいないことを、私はもう心得ていた。医師達が現実に行っている逆症療法的手法がいかに危険なものであるか暴露することに、非常に長けて来ていたこともあり、これらの番組に出演することは、私にとって何の苦にもならなかった。
 あるラジオ放送でクレイトン・ダグラスと共演する機会があった。彼の南部訛りを聞き取るのに苦労したが、それでも彼は自由を重んじる生粋の大麻信者で、小気味よい男だったから、我々の意見が完全一致することに、何の問題も生じなかった。私はミズーリ州コロンビアのオービットラジオでマイク・ヘイガンが司会を務める番組にも出演した。それは3時間もの間続き、私に沢山の質問に答えるチャンスをくれた。これは完全な成功だったし、マイクと仕事をするのは本当に楽しかった。
 また他の夜は、シカゴのジェイムス・アーサー・ジャンシックと「Feet to the Fire」という番組で共演した。番組が始まってすぐジェイムスが言った。「リック、あなたは実質、無償で治療薬を供給していたと言うんでしょ。どうしてそんなことができたんですか?」私は「トウモロコシ畑を思い浮かべて、それからその隣に大麻が植えられた畑を想像してみてくれ、1パウンドのトウモロコシはいくらの価値があるね?」と逆に訊いた。ジェイムスは「ただみたいなもんだね。」と答えたので、私はさらに尋ねた「もし大麻が自由に栽培されたとして、それがトウモロコシ以上に価値があるものになるかね?社会システムの腐敗が良質の薬用大麻をこんなに高価にしている元凶なんだ。それだけさ。」ジェイムスは「あなたの意見に対して反論のある人から電話が入ることは必至だろうね。」と答えたが、その後2時間の番組放送中、ただの一度も、私のコメントに対する論理的な反駁の電話は掛かってこなかった。クリスマスプレゼントのせいで、中学校を9年生で中退した私のような人間にとって、ラジオの生放送番組に電話出演し、このテーマに関して世界中の誰とでも互角に渡り合えるのは、面白い心持ちだった。
 私はジャックの番組に何度も出演し、彼と連絡を取る度に友情は深まっていった。通常私達が一緒にする番組放送は1時間半かそれ以上に及んだものだが、ジャックはただ座って私を吠えるがままにしておいてくれた。この素晴らしい男と共演した全ての番組は、真に快事であった。最初にジャックの番組に出演してからおよそ7週間後、エディ・レップと私でジャックの番組に出たのだが、彼は私に、ジャックが最初にオイルを摂取した時から、その場に居合わせていることを教えてくれた。「ジャックの病状が毎日改善しているのがハッキリ見て取れるよ。」と彼は言い、自身もそれから一週間以内にオイルを摂り始めた。
 番組の中でエディが言うには「この番組放送の数日前に、ジャックと俺はオークランドでヘンプラリーに参加したんだ。ジャックはイベント会場の至る所に行って、皆と話をした。話す時間を得られたんだ。ジャックが45日前にオイルを摂り始めた時、彼は5mも歩けなかったんだ。それが今じゃ十代の子みたいに、跳ね回ってるんだ。」オイルはジャックの足にできた糖尿病の潰瘍を治癒させたのだ。さらに、私は彼と話す度に、彼の言語機能が向上していくのを認識していた。ジャックの妻のジーニーが電話してきて、夫を自分の元に帰してくれてありがとう、と言ってくれたこともあった。ジャックの病気に罹っている人達は、アッチがうまく機能しなくなることが多い。私が勘繰るに、彼女が言っていたのは、多分そのことじゃないだろうか。結局のところ、全ての人々が自由に入手できるように、我々のために長年ジャックが戦ってきた、正しくその植物から作られた薬で、彼は本当に目覚ましい成果を得ることとなった。
 それからすぐ、ある晩ジャックと話していると「いいかいリック、あんたはオランダのアムステルダムでカナビスカップに出るんだ。そんで、スターになるんだよ。」と言って私を驚かせた。彼が言ったことが現実的だとは思えなかったので「ジャック、何を言ってるんだ?カナビスカップが俺と何の関係がある?俺のは薬用面の話で、喫煙用じゃないよ。」と反論した。ジャックは「まあ見てろよ。」と言って笑うだけだった。ジャックには将来何が起こるか分っていたのだ。その時の私にはさっぱりだったが。というのも私からすれば、自分がカナビスカップに参加するなど、最も起こりそうのないことだったのだから。
 それからジャックは、初めて『Run from the Cure』を観た時、どう感じたか話してくれた。「リック、俺はぶっ飛んだよ。俺の大麻に関する知識から、あんたが言っていることは全て真実だと分かったんだ。あんたのドキュメンタリーを見た後、あんたが示す薬用的側面を、オイルがもたらしてくれることは、至極当然だろうと思った。ただ、なぜこれが今まで出て来なかったのかと、自分が信じられなかったよ。『Run from the Cure』を観た時はトラックに轢かれたような衝撃だったね。」彼の説明を聞いて、私はとても可笑しかった。というのも、ジャックの本を読んで、彼のドキュメンタリーを見た時、全く同じように感じたからだ。
 ジャックと私は直接会ったことが無い。それでも、会話を通して、我々は親交を密にしていった。断琴の交わりと言ってもいいだろう。我々は共に、大麻がもう一度合法になるための唯一の突破口は、この植物の医薬的側面だと信じていた。大麻が癌を治癒すること、実質全ての病気を制御できることを人々が知ってしまえば、大麻草を押し込めておくことはできなくなる。大麻を育て、それを医薬的に使用する人々に対し、正しい心を持った人間が、どうして立ち塞がることができようか。
 世間が真実を学ぶことにより、大麻を喫煙するという嗜好品的側面は、さほど重要な事ではなくなってくるだろう。巨大金融資本がこの植物の使用を大衆に禁止することにより、さらに自分達の懐に金が入るということに気付く以前は、長い歴史を通じてそうだったように。ジャックの著書は、この植物の様々な使用法と、もしそれが適切に扱われた場合、我々が今直面している問題の多くが、どのように解決するかを鮮やかに描き出している。そこに私が、必要とする患者に精油を供給し、医薬的価値を露呈させて加勢した。これぞ鬼に金棒。ジャックと私は二人とも、システムがこの植物の様々な使用について、最早いかなる嘘や誤魔化しも続けられるものではないと感じたのだった。
 遡ること2003年、私はテレビで放送されるほとんどの番組を観ないことに決定した。この時点で私にとって、放映されるテレビ番組のほぼ全てが、茶番と嘘で成り立っていた。私が見続けていたのはディスカバリー(発見)とヒストリー(歴史)チャンネルだけだった。しかし程なく、それらにさえも魅力を感じなくなってしまった。私はニュースも天気予報も見なくなっていた。ニュースはどっちにしろ尾ひれがついているし、天気予報は当たりもしない、ではそれらを観る意味はどこにある?こうすることで私は自分自身の脱洗脳を始めたと言えるだろう、そして、時が経つにつれ、私は本当の世界を見始めたのだった。
 真実を曝露する『Loose Change(邦題:911の嘘をくずせ)』のようなドキュメンタリーが私の注意を引き始めた。これなら見るに値すると思えるようなものだ。このようなドキュメンタリーが提示している事実は、無視するにはあまりにも公然としたものであり、システムについて私が見てきたものと確実に一致していた。日々が過ぎると共に、私は何百もの様々なドキュメンタリーを視聴し、システムというものがどんなものか、完全に目が覚めた。読者諸兄には、真実を見つけられるように、自分自身を教育することを進言する。それ無しで我々に勝利はないのだから。我々の世界で起こっていることの真実は、インターネットでしか見つけることができない。主流派の情報媒体はコントロールされ、大衆の意識にそのような事実を上らせないようにしているからだ。
 インターネットでマックス・イーガン、ディヴィッド・アイク、アレックス・ジョーンズ、アーロン・ルッソなどの作品を見てほしい。目が覚めるような体験になるだろう。全ての人が見るべきドキュメンタリーがあるとすれば、ジャック・ヘラーの『Emperor of Hemp』、マックス・イーガンの『The Awakening』彼の最新作『Trance-Formation』、アーロン・ルッソの『America: Freedom to Fascism』、それからアレックス・ジョーンズがinfowars.comサイトで公開している作品だろう。その他にも何百もの見るべき重要な情報がある。私はこれらの重要情報を入手可能にしてくれた人達皆に敬意を表したい。彼らの作品は私がしている活動と密接にリンクしている。一緒にすることで、この惑星に住む、悲しい現実の深みにいる人々を、目覚めさせることができるだろう。
 2008年春、NORML(マリファナ法改正のための全米組織)が私の評判を貶めようとインターネット上で一悶着あった。我々はNORML全米理事のアレン・セントピアーからEメールを受け取った。彼は私が、この分野の科学者であるスペインのマニュアル・グズマン博士の研究を誤用しており、大麻の医薬的側面について私が言っていることは実証されていないと書いて寄越した。確かに彼の研究はTHCにその作用があることを示していたが、私は、グズマン博士の研究は大麻で癌が治ることを示唆している、と言及したことは一度もない、と返信した。そこで私は、NORMLが自分達自身で基礎研究をしたらどうかと提案しておいた。
 私はセントピアー氏に、単純に良質のバッツを少量使って精油を作り、糖尿病による潰瘍、皮膚癌、深刻な火傷の患者を見つけ、治療にオイルを使用することを提言した。罹患した部位にオイルを塗って絆創膏で覆う、それから三日おきに塗り直し、経過を観察する。私はNORMLに、発見したことは世間に公開するように、とも依頼しておいた。私にとって、この申し出は理に適ったものに思われた。この団体の設立目的は大麻の再合法化にあるわけだし。私は実際にセントピアー氏に会ったことは無いが、その後の返信を見るにつけ、本当に面倒臭い男であると思われる。「我々はNORMLだ。我々はグズマン博士の研究について熟知しているし、あなたが提供しているのは〝ガマの油〟以外の何物でもない。あなたは単に自分の計画を進めるための軟弱な布石を打っているに過ぎない。」私は彼の返事を読んだとき、頭を振るしかなかった。大麻を合法化しようとしている団体の全米理事が、地球上で最も薬用活性の高い物質である、高濃度の大麻オイルを〝ガマの油〟だと?
 NORMLが私の提案した単純な調査を行うのは造作もないはずだし、ともすれば、彼ら自身でこの植物が産するオイルの真実に行き着いていても不思議でなかったはずだ。私はセントピアー氏に返信して、彼が代表を務めるNORMLは欺瞞に満ちた組織であり、このオイルにも私のしている事にも軟弱さなど欠片も無く、もし、本当に軟弱な人間をお探しなら、ご自分を鏡に映してとくとご覧になるがよかろう、と教えてやった。
 その数か月後、私はハリファックスのダルハウジー大学でNORMLカナダのマーク・ボリス・セントモーリスが議長を務める会議に参加した。彼は会議を始めるに当たり、大麻は万能薬などではなく、癌を治癒したことはないと発言した。その日の聴衆の中にはオイルを使ったことのある者が多数おり、その内の幾人かは末期癌をオイルで治癒させていたので、彼の言説が好評を博したとは言い難い。私は「あなたはヘンプオイルが癌を治癒しないと言ったが、その仮説の根拠は何ですか?」と彼の声明にカウンターを食らわせた。これに対し彼らは、モントリオールである女性を治療したが、効果が無かったと返答した。私がどれ位の量を彼女に与えたのか尋ねると、彼は少量しか与えていないと答えた。さらに彼女が何か改善をみせたかを問うと、彼女をその後見ていないから分らない、と返してきた。
 私は「治療には従わなければならない手順がある」ことを彼に短く教示し「あなたは自身で彼女に再び会っていないと言ったが、それでどうしてオイルに効果無かったと分かるんですか?」と尋ねた。これは彼の頭を冷温停止させたようだった。ここまで、彼は聴衆を感心させるようなことを何一つ言っていなかった。それから彼は何を思ったか、ジャック・ヘラーは「山師」だとほざいた。私は自分の耳が信じられなかった。今日ある大麻解放運動の創始者であり指導者である人間が、NORMLカナダの代表者によって言い腐されているのだ。過去にNORMLはジャック・ヘラーの仕事に対して賞を授与してさえいるのに、この男はそんなことは全く知らないといった風だった。
 この会議から間もなく、私はTime 4 Hempというラジオ番組にキャスパー・レイチと出演した。彼がNORMLに関して言及した時、私は彼に自分がこの団体をどう考えているか話した。「もし私が、NORML創設者のケイス・ストロウプをオンエア中に呼び出せたら、彼を奇襲しないでくれよ。」とキャスパーは申し出たので、私は応じて「キャスパー、私は誰かを奇襲するためにここにいるわけじゃない、私は単に真実を明らかにしたいだけさ」と言った。キャスパーがケイス・ストロウプに電話した時には驚いたが、彼は番組に出る気があるようだった。ケイスが放送に参加した時、私は自分とアレン・セントピアー、それからNORMLカナダのマーク・ボリス・セントモーリスとの経緯を説明した。彼はそれを軽くあしらって、NORMLは北の国カナダで私がしていることを、ただただ素晴らしいと考えていると、私に話した。
 私は「ではなぜ、あなた方はこれについて何かしようとしないんですか?」と尋ねた。彼は「我々も努力していますよ。3、4年後には合法化されるでしょう。」と答えたので、私は続けて「しかしですよケイス、その間に苦しんだり、死んだりする人達はどうなります?」と言うと、彼は何かモゴモゴと返事することはしたが、私には聞き取れなかった。これはしかし、私にとってはどうでもいいことだった。NORMLについて知っておくべきことは既に全て知っていたのだから。私の良く知るジョー・バートンという活動家がNORML創設時に居合わせた。彼の見解によると、NORMLの活動指針は創立当初から、本来あるべき姿ではなかった。私が今見ているものから判断しても、彼の言っていることは真実であろう。
 NORMLの黎明期、彼らの意図するところは今より少しばかりましだった。しかし、私の理解では1990年代初頭、NORMLは弁護士達によって完全に乗っ取られた。往々にして、組織というものは、最初は少なくとも善良な意図の下に始まるが、終わりには単純に腐敗した悪夢になっている。これがまさにNORMLの辿った道であろう。NORMLには沢山の善良な人々が参加しているが、彼らは運営している者達の意図を確かめるべきだ。悲しいことにこの組織はリーダーシップを全く欠いているのだから。
 程なくして、私は再びキャスパーの番組に出演し、自分のオンエアが終わった後、放送を聞いていた。次に私が聞いたのは、NORMLに寄付を募るコマーシャルだった。私はキャスパーに電話して言った。私は、彼と番組に何の敵意もないが、もう出演することはできない、なぜなら、自分が欺瞞だと看做している組織に寄付を募ろうとする何者にも加担することは出来ないからだと。私の考え方では、これは私の名前を使ってカナダ癌協会に寄付を募るのを許すのと何の違いも無い。キャスパーは私の説明を聞いて、残念そうだったが、私の気持ちも分からなくはないと言ってくれた。そして、我々はコンビを解消することにした。
 大麻の完全なる合法化は我々の世代の最重要課題であり、その成功はいかに協働するかに掛かっている。大麻解放運動は過去数十年間でかなり勢力を拡大してきた。しかし、それでもまだ、活動に携わる人々全員、そして組織が、単純に共通の目標と正義のために共闘すれば、さらに多くを成し遂げられたはずである。もしこれが起これば、我々全てが極近い将来に、この植物を、我々の望むどのような方法であれ、制限無しで使用する自由を、獲得することができるだろう。
 あまりにも頻繁に、このような問題には、エゴや下心、悪意が絡んでくる。大麻解放運動に関わる人間全てが、正しい目的で参加しているわけではないのだ。自称活動家の多くが規制の存続を容認し、使用を禁止した者達に、税金を払う意思があるとさえ公言している。私は、そのような人々を活動家と呼ぶことはできないし、私の観点では、彼らがしている事は、自由に生きたいと望む、我々の様な者達に対する単なる侮辱である。近いうちに我々が協調して、自分達の差異を埋められることを願っている。しかし同時に、本物の活動家にとっての大麻解放運動の主たる目標は、大麻の完全なる再合法化と自由な使用、でなければならないのは必定である。