不死鳥の涙 ーリック・シンプソン物語ー リック・シンプソンによるヘンプオイル製造工程

リック・シンプソンによるヘンプオイル製造工程

 私は通常1パウンド(453g)かそれ以上の、とても効きの強い高品質のインディカ種大麻か、インディカ優位のサティバ交配種を使う。1オンス(28g)の良質なバッツは3~4gの高品質オイルを産するが、オイルができる量は品種によって異なる。作業が終わるまで、自分が使った原料から、どれほどのオイルができるか、本当の所はわからないものだ。平均的に、1パウンドの良質なバッツからは、およそ60gの高品質オイルが出来る。偶に、幾つかの品種を使うと、それ以上できることもある。
 多くの人が、オイルは琥珀色でなければならず、向こうが見える位透明でなければならないと信じているようだ。私の製造するオイルも、よくこの様な特質を備えているが、常にそうとは限らない。オイルの色味と肌理は、品種、手法、使われる溶媒に因る所が大きい。自分で作ったオイルの色が黒いからといって、心配する必要は無い。これはそのオイルが効力ある薬でない、ということではない。実際、私が作った最も強いオイルの幾つかは、黒かった。だが、薬用効果に問題は無かった。
 この製造手順は、誰にとってもオイル製作を簡単にするものだと思うが、始める前に、適切にこれを行う為に必要な物が、全て揃っていることを確認して欲しい。必要な物は、原材料、溶媒、長い棒、プラスチックのバケツ2個、幾つかの液体用容器と漏斗、コーヒーフィルター、電子炊飯器、扇風機、ステンレスの計量カップ、コーヒーウォーマー、それと、注射器で全てである。
 私が説明しようとしている課程は、原材料を良質の溶媒で二回洗うことから始まる。溶媒は純粋なナフサ、または99%のイソプロピルアルコールなどで、原料となる大麻草の樹脂を溶かすために使う。ナフサはオイル製造において、とてもいい溶媒であることが証明されているし、他の溶媒に比して、コスト面でかなり安価である。呼び名によって、形質も異なるが、カナダで私が使っていたものはライトナフサと呼ばれており、ヨーロッパではベンジンと呼ばれることが多い。燃料を売っている所に行けば、見つけるのに大した苦は無いだろう。ナフサは多くの産業的用途があり、エンジン部品のグリースを落とすこと等に使われる。だから、これを見つけるのは大して難しいことではないはずだ。その使用が多岐に及ぶことを説明するため上げると、これはコールマンのランプとストーブに使われている燃料と同じものだ。だが、残念なことに、さび防止剤が入っているため、コールマンの燃料を、このオイル製造には推奨できない。また、世界の色々な国で、医療用のナフサが存在しているが、それは少しばかり値が張り、通常手に入れるのも難しい。さらに私は、医療用のバージョンとピュアライトナフサの間に、目立った違いを見つけられなかった。
 ブタンでもオイルは精製できるが、それを溶媒としてこの薬を製造するのはお勧めしない。非常に揮発性が高く、毒性を中和するのに、高価な器具が必要とされるからだ。加えて、ブタンでオイルを精製すると、脱カルボキシル化が起こらないため、この方法で作られたオイルは薬用効果が幾分弱まる。余分な時間を掛けて、適切に脱カルボキシル化しない限りは。
 今まで私が実際に使ったことがある溶媒はエーテル、ナフサ、99%イソプロピルアルコールだ。私は個人的にエーテルがお気に入りだが、高価だし非常に手に入れ辛い。だが非常に効果的な溶媒ではある。エーテルを使用するのに最適なのは、閉鎖系の蒸留器だと私は考えている。エーテルは揮発性が高く、蒸気は作業を危険にするからだ。エーテルとナフサはどちらも、より選択的な溶媒であり、これはアルコールが溶媒としてそこまで効果的でないということを意味する。だが、アルコールでも十分事足りる。アルコールは原材料からより多くのクロロフィル(葉緑素)を溶かし出す。このため、アルコールで抽出されたオイルは、一般的にそれと判る程色が黒い。
 溶媒が効果的であるためには、純度100%であるべきだが、100%純粋なアルコールは高価で、探し出すのも難しい。一方ナフサは安価に求められるし、探すのもそこまで難しくない。エーテルの次に私が選ぶのはナフサだ。アルコールを含むこれら全ての溶媒は本質的に毒性があるが、この製造工程に従えば、完成したオイルに残留する溶媒は、心配するに及ばない。仕上がったオイルが室温まで冷めると、それはオイルというより、粘度の高いグリースのような物質になる。これこそあなたが手に入れられる解毒剤だ。もし、溶媒の残留物の痕跡が微かに残っていたとしても、オイルそれ自体が、その毒性に中和作用を及ばしてくれるだろう。重要なのは、薬用効果がある素材のバッツの樹脂を溶かし出すということである。そして、溶媒とオイルの混合物が濾過され、溶媒を蒸発させたら、手元には最も薬用的な形態の樹脂が残ることになる。
 最高の結果を得るためには、原材料は可能な限り乾燥していなければならない。作業する場所は良く換気されていて、火花や炎、赤く焼けた電熱器などが周りにないことを確実にする。原材料のバッツを深さのあるバケツに入れる。容器はこの〝洗濯〟課程の最中、オイルと溶媒の混合物がこぼれ出ない深さの物であること。バッツを溶剤に浸し、4cm×4cmの長い角材で砕いていく。砕き終わったら、さらに中身が完全に浸るまで溶媒を加える。角材を使ってバッツを砕く作業は3分程行う。それからもう一つの綺麗なバケツに、ゆっくりとオイル溶媒混合物を注ぐ、この時、元の容器に原材料を残しておくことで、二度目の洗濯ができる。
 もう一度、原材料が浸るまで〝新鮮な〟溶媒を加え、さらに3分間角材で撹拌する。それから、オイル溶媒混合液を一回目の混合液の容器に加えて合わせる。3度目の洗濯は少量のオイルしかもたらさないし、治療薬としての利点も薄い。最初の洗濯で70~80%の樹脂が溶け出し、二度目の洗濯で有益な樹脂で残っている物は殆ど出てしまう。一番搾りが最も薬用効果は高い。だが、原材料が高品質であれば、二番絞りのオイルも有用だ。もし、理由があって、求める効力が足りない材料を使うのであれば、内服用には一番搾りだけを使った方が良い。それから、栽培を始めるか、より質の高い材料を探す。オイル抽出は量より質であり、原料が良ければ、治療薬も良く効く。
 清潔な水タンクの様な上部に狭い口の付いた容器を使い、漏斗を差して、大型サイズのコーヒーフィルターを設置し、オイル溶媒混合液を流し込み、不必要な植物素材を濾過する。この容器と漏斗を多く使えば、濾過作業は早く済む。混合液が濾過されたら、今度は溶媒を煮切る準備をする。
 もし持っていないのであれば、高低の温度調節の付いた大きめの炊飯器で、蓋が取り外し可能な物が、安く売っているので、オイルから溶媒を飛ばすために購入するとよい。炊飯器が置かれている場所は、良く換気されていることを確かめる。扇風機を近くに置き、溶媒が発する蒸気を吹き飛ばす。これは気化した溶媒のガスが濃くなって、危険をもたらすのを防止するためである。炊飯器は調理中にコメを焦がさない様に設計されており、内蔵されている温度センサーが、炊飯器内の温度が高くなり過ぎない様に、自動的に低温の設定にスイッチしてくれる。
 オイル精製の際、温度が148℃を超えると、オイルからカナビノイドが気化し始める。当然、これは避けるべき事態だ。炊飯器がちゃんと機能していれば、大体110℃位で高温の設定が切れる。この温度は脱カルボキシル化が起こるには十分な温度と言われており、
THCが気化する温度より十分低い。これこそ私がオイル製造初心者に炊飯器を強く勧める理由である。炊飯器を使うことで、オイルの質を害する危険性を排除することができる。さらに完成したオイルは脱カルボキシル化されており、これは薬用効果を十全に発揮させるために重要である。
 私はオイルを作るのに、クロックポットのような電熱器具は、使わない方が良いと考えている。私は最初にオイルを作ろうとした時、これらの器具がどれ程の出力があるのか知らず、クロックポットを用い、オイルは過熱し駄目になってしまった。だから、初心者は炊飯器から始めるべきであり、我々の指示手順に注意深く従うことが、唯一合理的だと考えているし、悲劇を回避してくれるだろう。
 この薬を精製するために蒸留器を使うことも可能だ。これは溶媒を再利用することもできる。この方法は炊飯器を使うよりもよっぽど理に適っている。だが、溶媒を安全に蒸留するよう設計された蒸留器というのは値が張る物で、さらに、殆どの人がこの装置の適切な操作法を知らない。もし手に入るのであれば、私自身も蒸留器を使いたいが、国によっては、蒸留器を所有することすら法に反するのだ。もし、真剣に大量のオイルを製造したい人間がいるとしたら、蒸留について調べ、この機械の使用法に習熟するといい。
 炊飯器に溶液を注ぐ時や、溶媒を煮切る時は、火花や炎、赤く熱した金属等が近くに無いことを常に確実にしておく。溶媒から発生する蒸気は可燃性が高く、毒性がある。私はこの工程を何千回と行って来て、一度もしくじったことが無いが、安全のため、指示手順に従い、作業所は良く換気するように。溶媒から発生する蒸気を吸い込まない様に注意すること。この蒸気は近くで呼吸する者に良くない影響を及ぼすことがある。
 確実に扇風機を稼働し、蒸気を吹き飛ばすのに十分な空気の流れを作る。それから炊飯器に3/4位まで溶液を入れる。このように少し余裕を持たせることで、混合液が吹き零れることを防げる。炊飯器の炊飯(高温)スイッチを入れ、溶媒を蒸発させはじめる。これを換気無しで絶対行わないように。気化した溶媒が濃縮し、熱源と接触することにより火事の原因となり得る。炊飯器内の水位が下がって来たら、全部無くなるまで、注意深く残っている混合液を追加していく。最終的に水位が下がって来て、5cm位になったら、10~12滴の水を加える。この少量の水により、残っている溶媒をより早く飛ばすことができる。
 炊飯器の中身がかなり少なくなってきたら、私は通常、手袋を嵌め、炊飯器を持ち上げ鍋回しをする。これは蒸気を吹き飛ばすため扇風機の前で行う。こうすることで、わずかに仕上がりが早くなる。程無く、炊飯器は自動的に炊飯モードから保温モードに切り替わる。溶媒が最終的に蒸発すると、炊飯器の中に残されたオイルからひび割れのような音がし、泡がかなり少なくなるのが見て取れるはずだ。また、オイルから少量の煙か蒸気が立ち上るのに気づくだろう。だが心配には及ばない。これは先程加えた数滴の水によるものだ。炊飯器が自動的に保温モードに切り替わったら、私は再びそれが炊飯モードにできるまで冷ます。再度炊飯モードにし、自動的に二回目の保温モードに切り替わったら。私は炊飯器の内釜を取り外し、中身をステンレスの計量カップに注いでいく。
 内釜の中には殆ど取り出せない位少量のオイルが残ってしまうだろう。暖かい内に乾いたパン等で拭き取っても良い。このパンを少量、薬として食べることもできるが、オイルの効果を感じるまでには1時間かそれ以上掛かることがあることを、憶えておいた方が良い。このようなパンをどれ位摂るかは注意が必要だ。冷えたオイルと同様、非常に少量であったとしても、かなりの時間、眠らされることがあるのだから。釜に着いたオイルを綺麗にする他の方法としては、少量のアルコールで洗うというのがある。こうすれば、ヘンプオイルチンキが出来る。
 このチンキは皮膚病の治療に非常に効果的であり、少しで長持ちするので、節約にもなる。どちらにしろ、私の場合は、よく複数の品種のオイルを混ぜたりするので、単純に釜に残ったオイルは次回までそのままにしておくことが多い。様々な品種からのオイルを混ぜることで、異なるタイプのオイルが有する薬用効果を全て得ることができる。私はこのようなオイルが全ての治療に効果的であることを発見した。もし、様々な種類の優良な大麻を持っているのであれば、オイルを混合することは良い考えだと思う。もし持っていなかったとしても、一品種からのオイルで、必要を満たすことは充分可能である。
 ステンレスの計量カップに注いだオイルを、コーヒーウォーマーのような緩やかな熱源にセットし、オイルに残っている水分を蒸発させる。大抵の場合、これはすぐ済むのだが、品種によっては天然のテルペンを多く含むものがあり、このテルペンがオイルに気泡を生じさせ、それが終わるまで結構長いこと掛かる場合がある。コーヒーウォーマーに掛けたオイルが泡立つのを止め、表面に何の活動も見られなくなったら、コーヒーウォーマーから外し、粗熱を取る。コーヒーウォーマーのような器具を使わずにオイルを仕上げる方法としては、オーブンを110℃に熱し、オイルを1時間程入れておくというのでもいい。どちらの方法でも、仕上がったオイルは脱カルボキシル化されており、溶媒の残留は問題にならないはずだ。
 それから、地元のドラッグストアで売っているような、針の無い注射器等のプラスチック容器を使い、温かいオイルをゆっくりと吸い上げ、そのまま冷ます。程無く、樹脂は粘度の高いグリースのような物質になる。稀に、樹脂が濃すぎて、冷えた時に注射器から押し出せない程の事もある。そのようなことになったら、単純に注射器を短時間お湯の中に付けると良い。そうすれば、服用量を容易に押し出すことができるだろう。偶さか患者は多すぎる量を出してしまうことがある。この場合、単にピストンを使って、シリンダー内に戻せばいい。大抵、超過分のオイルは大した困難も無く戻ってくれる。
 平均的に、乾燥した1パウンドの原料は、二回の洗濯をするのに、2ガロン(8~9リットル)の溶媒を必要とする。原材料がこれより多い、または少ない場合、単純計算で大体の必要量を計算すると良い。最初から最後まで、全工程を完了するには大概3~4時間を要する。ここまで来れば、薬は出来上がり、後は使うばかりだ。このオイルの極端に長い保存期限にも言及しておくべきだろう。ちゃんと冷暗所に保存された場合、オイルは何年もの間、薬用効果を保ち続ける。
 最初は自分自身で薬を作ることに尻込みするかもしれないが、実際やると、この工程は単純この上ない。この指示手順に注意深く従うだけでいい、2、3度オイルを抽出した後は、それがコーヒーを淹れるのと大差無いことに気が付くだろう。一度自分の薬を自分自身で作ってしまえば、薬に対する不思議は雲散霧消し、最早殆どの場合、医者に頼る必要もなくなる。今、あなたはあなた自身の医者となったのだ。

オイルを作るのに他の方法はありますか?
 オイルを精製する方法は数多くあり、私の方法が必ずしも最良であるとは言わないが、私の知識では、何千ものケースで成功している唯一の方法である。実際、我々が世界に示した方法は、最良というには粗削りだと考えられるが、この方法で非常に純粋な形態の治療薬が製造できるのは確実だ。私の意図するところは、容易に手に入る器具でオイルが製造できる方法を示すことである。必要があればこの単純なやり方で、殆ど誰でも自分自身の薬が製造できるのだ。
 2005年に警察の襲撃を受けるまで、私は蒸留器を使って薬を精製し、溶媒を再利用していた。これは断然危険が少なく、溶剤が無駄にならないから、より地球にやさしい方法だった。しかし、警察が私の機材を押収したので、私は目的を達成するため、炊飯器を使わざるを得なくなった。

他にどんな抽出法が使えますか?
 これも同様に、抽出法は様々存在し、私はそのような事柄の専門家であると公言していない。希ガスによる抽出等の科学的手法の問題点は、殆どの人が、そのような抽出法の知識や器具を持ち合わせていないと言う事だ。これこそ、我々が世間に、この薬を自分達で製造する最も単純で可能な方法を示してきた理由である。
 オイルを製造する方法で冷水抽出法と言うものもある。この方式の抽出法を私は2回しか試したことが無い、だが、結果は期待していたほど良くは無かった。それでも、この方法で高品質オイルを製造したと言う人達を知っている。冷水には火が付かないし、爆発しないことも、明明白白だから、冷水抽出法は選択肢の一つにはなるだろう。しかし、患者にオイルを与える前に、それが脱カルボキシル化されていることを確実にする必要がある。

脱カルボキシル化とは?
 脱カルボキシル化は、熱によりオイルの中の分子がデルタ9の位置に回転することによって起こる。こうすることで、より薬用活性が高くなる。何度の熱でこれが起こるかは、議論のあるところで、このテーマの様々な報告を見てきたが、意見は一致していない。私が推奨している方法をとれば、オイルは脱カルボキシル化が起こると言われている以上の温度に十分熱せられる。カルボキシル基は除去され、分子が我々のエンドカナビノイド体系にあるCB1とCB2受容体に結合できるようになり、血液脳関門も通過させられる。

オイルをより強くする方法はありますか?
 オイルの効能を増す方法は幾つかあるが、ここでもまた、一般的な人は、これらの殆どの方法が必要とする、特別な器具や知識を持ち合わせていない。過去に、私はそのようなオイルを作ったことがあり、それらはより強力で薬用的だったが、現行法と、必要とされる機材のため、それ以上の製造は私にとって不可能だった。

自分が製造、または購入したオイルの効力が足りない時、何か出来る事はありますか?
 もし良質の原料でオイルを製造したのであれば、この問題には行き当らないはずだが、そうなる人がいるのも確かだ。深刻な病気を治療する際は、最善を尽くさねばならない。もしあなたが持っているオイルが任務を果たせないのであれば、私ならさらに原料のバッツを手に入れ、適切に製造を行うだろう。命の綱渡りをしているときに、低品質のオイルと遊んでいる暇は無い。もしあなたが苦しんでいる本人だとしたら、可能な限り最良の治療を望むはずだろう?だから他の人に提供する時も、そうするようにして欲しい。
 この薬に関するさらなる情報は、この本のすぐ後に出版される『Rick Simpson The Real Medicine(リック・シンプソン‐真の医学)』で見つかるだろう。